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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5813号 判決 1973年3月09日

原告

(フランス国パリ市)

ソシエテ・デ・リユネチエー

右代表者

アナトール・テムキン

右代理人弁護士

小池恒明

被告

T眼鏡株式会社

右代表者

大平三郎

被告

株式会社O

右代表者

斉藤昭勝

右両名代理人弁護士

宮沢邦夫

右復代理人弁護士

伊藤真

主文

被告T眼鏡株式会社は、別紙第二目録および同目録説明書記載の眼鏡枠を製造販売してはならない。

被告株式会社Oは、右眼鏡枠を販売してはならない。

被告T眼鏡株式会社は、原告に対し、金一、一九三万七、〇八八円およびこれに対する昭和四六年七月一七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告株式会社Oは、原告に対し、金二一三万七、八八六円およびこれに対する昭和四六年七月一七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告T眼鏡株式会社に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告、その余を被告らの負担とする。

この判決は、第三、第四項に限り、原告において、被告T眼鏡株式会社に対し金四〇〇万円、被告株式会社Oに対し金七〇万円の担保を供するときは、当該被告に対し仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

第一不正競争防止法第一条に基づく請求について

一原告製品の形態およびその周知性

原告が、原告製品を製造販売する会社であること、原告製品の構成が、別紙第一目録および同目録説明書記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

ところで、原告は、右構成をもつ原告製品の形態が、不正競争防止法第一条第一項第一号所定の「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当する旨主張するから、まずこの点について判断する。

不正競争防止法第一条第一項第一号の規定の趣旨は、広く認識された「他人ノ氏名、商号、商標、商品の容器包装其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」と同一または類似のものを使用するなどして、他人の商品と混同を生ぜしめる行為を防止し、もつて右混同により営業上の利益を害されるおそれのある者を保護するにある。したがつて、「其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」とは、右法条に例示された氏名、商号、商標、商品の容器包装などと同様に、商品の出所表示の機能を有するものを指すと解すべきである。ところで、商品の形態は、もともと、その商品の目的とする機能を十分に発揮させるように選択されるものであつて、商品の形態の選択には自ずから右目的からくる一定の制約が存する。しかし商品の種類によつては、右制約の範囲内で需要者の嗜好の考慮、構成材料の選択などにより同種商品の中にあつて、形態上の特異性を取得する場合があるし、それに宣伝などが加わつて、商品の形態自体が、取引上、出所表示の機能を有する場合がある。そして、そのような場合には、前記不正競争防止法第一条第一項第一号の規定の趣旨に照し、商品の形態自体、同法条にいう「其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当するものといえることは明らかである。

そこで、原告製品の形態が、右法条にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当するか否かについて、検討する。

前記認定事実に<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告製品は、レンズを保持するナイロン糸(1)、ナイロンクッション、レンズの溝に合わせてレンズを保持する金属枠(2)、およびつる(3)、前枠(4)、蝶番(5)、ブリッジ(6)、バッド(7)から編成され、ナイロン糸(1)と金属枠(2)とを連結し、つる(3)と左右の前枠(4)とを蝶番(5)で止め、折りたたみ自在とし、前枠(4)とブリッジ(6)とを一連にし、前枠(4)と金属枠(2)とをねじ止めにして結合し、金属枠(2)の下方に延びた金属棒にパッド(7)を付けた構造となつている。また、レンズを眼鏡枠に取り付ける際には、レンズの全周囲に溝を設けて、ナイロン糸(1)と、金属枠(2)にはめ込まれた凸部をなすナイロンクッションとをレンズの溝にはめ込んで固定する。

2  ナイロン糸を使用した眼鏡枠は、原告製品の日本国内における販売前、次のものがあつた。

(一) 昭和三六年ころ日本国内に輸入販売されたM社製の眼鏡枠。これは、金属枠にナイロンクッション(凸部)がなく、金属枠が溝になつていて、レンズを眼鏡枠に取り付ける際には、ナイロン糸で固定される部分は、レンズに溝を設け、金属枠で固定される部分は、レンズに凸部を形成する。

(二) 昭和三五、六年ころI製作所で製造され、「サンライト」の商品名で販売された眼鏡枠。この眼鏡枠の構成は、右M社製のものと同一である。

しかして、右M社製、I製作所製の眼鏡枠は、ナイロン糸を使用している点で、原告製品と同一であるが、ナイロンクッションがなく、かつ、日本国内における販売量も僅かであつた。

3  一〇数年前から、「溝安全」と称する眼鏡枠があり、これは、レンズの周囲に溝を設けたものであるが、レンズを固定するものが、針金状の金属環で構成されており、全体的形状において、原告製品と著しく相違するし、その製造販売者も明らかでなく、販売数も僅かであつた。

4  原告製品は、昭和三六、七年ころ、T眼鏡が、日本国内に輸入し、販売したが、販売数量も僅かで、一部業者に知られるに過ぎなかつた。

その後昭和四四年二月になつて、Hレンズが、原告製品を独占的に日本国内に輸入し、H硝子が、独占的にこれを小売店に直接販売するようになり、右輸入数量は昭和四四年が六万八、四八五本、昭和四五年が一〇万一、五二四本、昭和四六年(六か月間)が一二万七、二〇一本となり、そして、H硝子が、その販売のため、テレビ、新聞、雑誌等で継続的に宣伝した(ただし新聞、雑誌による宣伝には原告製品が原告の製品である旨の表示はない。)。

原告製品を販売する場合、それにはめ込むレンズは、その周囲に溝を彫る必要があるが、従来は、砥石を用いて溝を彫る方法が採られ、技術的にかなりの困難が伴つたが、原告が、溝彫機(グルービングマシン)を小売店に相当数量領布したため、レンズの溝彫が容易となり、原告製品の販売数量の増大をもたらした。

また、原告は、「NYLOR」という商標(日本においては、昭和四四年六月二五日出願、昭和四五年一二月三日公告、昭和四六年一一月二七日登録である。)を原告製品の販売に使用してきたが、H硝子において、原告から、右商標の使用権の設定を受け、昭和四六年秋ころから、Hレンズが製造した原告製品とは別形態のナイロン糸を用いた眼鏡枠とともに、原告製品に、「ナイロール」の表示を用いてこれを販売し、原告製品は、「ナイロール」の表示によつても知られるようになつた。

右「ナイロール」の表示の使用により、原告製品、保谷レンズ製品以外のナイロン糸を用いた眼鏡枠についても、「国産のナイロール」、「OPナイロール」(被告製品を指す。)あるいは「べつ甲ナイロール」などと一部業者間に用いられるようになつた。

5  眼鏡枠の形態にも、流行があり、従前からある「ヘビーライン」と称される硬い、重い感じのものから、「ソフトライン」といわれる原告製品を含む柔かい、軽い感じのものが、漸次注目されるようになつた。

6  原告製品は、前記1のような形態を有するところ、ナイロン糸を使用した眼鏡枠は、前記2のとおり、他にも存したけれども、その販売数量が僅かであつたこと、全体的形態、重さ、手ざわり等が原告製品と相違することなどから、原告製品の形態の特異性が害なわれることもなく、原告製品は、ナイロンクッションを有することを含むその形態の特異性に、その輸出販売数量、宣伝などが加わつて、遅くとも、昭和四六年三月ころには、日本全国にわたつて、眼鏡問屋、小売業者などにおいて、その形態は、原告の商品を示すものとして、広く知られるようになつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によると、原告製品の形態自体不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル……他人ノ商品タルコト示ス表示」に該当するものというべきである。

7  被告らは、原告製品のナイロンクッション部は、外見上覚知できないから、原告製品の形態上の特徴とはいえず、そうすると、原告製品とM社製、I製作所製の眼鏡枠とは、形態上類似することになるので、原告製品の形態が、原告製品を表示するものとして周知となる筈がない旨主張するけれども、不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に商品の形態が含まれる理由に関する前説示に照すと、商品の取引において、商品のある構成部分が、その商品の特徴の一つとして、取引者または需要者に認識されるものであれば、その構成部分をもつて、その商品の形態を構成するものと解すべきところ、前記認定によると、原告製品は、ナイロンクッション部を有するところにも形態上の特徴があるとして、問屋、小売業者に認識されているのであるから、ナイロンクッション部を原告製品の形態の一構成要素とみることを妨げないし、それに、前記M社製、I製作所製の眼鏡枠は、全体的形状において原告製品に類似するところがあるが、前認定のようにこれらの製品はわが国において僅かしか販売されなかつたのであるから、右両者の製品が過去において販売されたからといつて、右事実は原告製品がその全体的形態において、原告製品の形態を示すものとしてわが国において著名であつたという前認定を覆すものではない。被告らの主張は理由がない。

また、被告らは、「NYLOR」の商標にも周知性がなく、右商標が原告製品の形態の周知性取得に資するところがない旨の主張をするが、前記認定によると、「ナイロール」の表示も、原告製品が周知となつた一因であることが明らかであり、かえつて、そのために、他製品にも、「ナイロール」の表示が用いられたことも、前記認定のとおりであるから、被告らの右主張も、採用することができない。

二原告製品と被告製品との混同

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

1 被告Tは、眼鏡枠の製造販売を業とする会社であり被告Oは、眼鏡枠の卸商であり、被告Tは被告製品を製造販売し、被告Oは、被告製品を販売しているところ、被告製品は、レンズを保持するナイロン糸(1)、ナイロンクッションを設け、レンズの溝に合わせてレンズを保持する金属枠(2)、つる(3)、前枠(4)、蝶番(5)、ブリッジ(6)およびパッド(7)からなる点で、原告製品と、その構成において同一であり(以上の事実は、当事者間に争いがない。)、そして、ナイロン糸(1)と金属枠(2)とを連結し、つる(3)と左右の前枠とを蝶番(5)で止め、折りたたみ自在とし、前枠(4)とブリッジ(6)とを一連にし、前枠(4)と金属枠(2)とをねじ止めにして結合し、金属枠(2)の下方に延びる金属棒にバッド(7)を付けた構造である点も同一であり、相違点は、眼鏡のつるに付された表示が、原告製品では、「ES-SELARC 86」となつているのに対し、被告製品では「Opart 101」(ただし、番号は一定していない。)となつていること、バッドの部分が、原告製品では、ナイロンで取り付けられているのに対し、被告製品では、金属でねじ止めされていること、つるの材質が異なることくらいで、その他つるの形状、前枠の形状、ブリッジの形状、バッドの形状(原告製品の方がやや長い。)などほとんど同一である。

2  眼鏡業者は、原、被告製品を手にとつて見れば、マーク、つるの材質、つるの復元力、手ざわりなどの相違から、両者を識別することができるが、眼鏡業者でも、やや離して見ると、その識別は困難なほどであつて、一般需要者においては、両製品を手にとつて見ても、マークが別製品を示すものであることを知らない限り、その識別は全く困難であり、現に、被告製品を原告の商品として購入した例もある。

3  原告製品が、舶来品で、その市価が一本当り金一万二、〇〇〇円である(この事実は、当事者間に争いがない。)のに対し被告製品は一本当り金八、五〇〇円ないし八、七〇〇円ていどで小売されていること、国産品の眼鏡枠と舶来品の眼鏡枠を同時に取り扱う小売店では、舶来品と国産品とは、別場所に区別して陳列されるのが一般であり、また、国産品の眼鏡枠は舶来品のそれに比べて価格が安いのが通常であるが、なかには大差ないもの、あるいは逆に高いものも存すること、小売店では、顧客に製品の特徴などの説明をして販売することもあるが、顧客は自分の気に入つた品物でさえあれば、それが国産品であるか舶来品であるかを問題にすることなく、したがつて小売店の方でも品物が国産品か舶来品かの説明などしない場合も多い。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人長和雅之の証言部分は他の証拠に照したやすく信用することができないし、他に右認定を左右するにたる証拠はない。

右事実によると、被告らは、原告製品の形態ときわめて類似する形態を被告製品に使用して、これを販売し、もつて被告らの商品を原告の商品であるかのように、一般需要者をして混同を生ぜしめ、また、将来にわたつて生ぜしめるおそれを有するものというべきである。

被告らは、原、被告製品には、高級舶来品と国産品という相違があつて、需要者はこれを混同することはない旨主張し……。そもそも形態において周知性を獲得した他人の商品と同一または類似の形態を有する商品を製造販売することは、それ自体で他人の周知商品との混同を生ぜしめる行為であるといえるのであつて、価格の開きが極端であるとか、一見して模造品であることが分るような粗悪品であるとかいうような特別の事情のないかぎり、僅かの価格の違いや、国産品と舶来品との相違とかいうようなものは、両者の間の混同を生じさせないものということはできないのである。

三営業上の利益を害されるおそれ

前記のとおり、被告製品と原告製品は一般需要者に、混同されるおそれがあり、現に、混同した事実もあるから、右混同により原告はその営業上の利益を害されるおそれがあることは、明らかである。

四差止請求

以上のとおりであるから、原告の被告らに対する不正競争防止法第一条第一項第一号に基づく差止請求は、その理由がある。

第二不正競争防止法第一条の二に基づく請求について

一侵害行為

被告らが、不正競争防止法第一条第一項第一号該当の商品混同行為をなしたことは、前記第一の判断のとおりである。

そして、被告らは、T眼鏡が昭和三六、七年ころ原告製品を日本国内に輸入し販売したころから、原告製品の形態を認識していたこと、そのうえで、被告Tにおいて昭和四五年九月ころから被告製品を製造販売し、被告Oにおいてそのころからこれを販売してきたことが認められるところ(他に右認定を覆すにたる証拠はない。)、前記のとおり、被告らは、被告製品に、原告製品の形態ときわめて類似した形態を使用したのであるから、被告らの右商品混同行為は、少くとも、被告らの過失によるものというべきである。

次に、原告が、被告らの右混同行為により営業上の利益を害されたことは、前記第一の判断から明らかである。

そうすると、被告らは、原告に対し、右行為により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

二損害

原告は、原、被告らが、市場において、原、被告製品の販売について、完全なる競業関係にあり、被告製品は、原告製品の代替品として販売されているから、少くとも、被告らが、被告製品の販売により挙げた利益が、原告が被告らの行為により被つた損害というべきである旨主張するので、この点について以下判断する。

不正競争防止法には、不正競争行為によつて受けた損害の額の算定に関し、特許法第一〇二条、実用新案法第二九条、意匠法第三九条、商標法第三八条、著作権法第一一四条のような規定はない。そこで、形式的には、損害賠償を請求するものの方で、民法の一般不法行為理論により、自己の被つた損害の額を立証しなければならないことになる。しかしながら、営業上の利益および損失はあらゆる経済的、社会的要因が複雑にからみ合つて発生して来るものであつて、ある事実からこれだけの利益または損失が発生したというようなことは確定しうるものではない。このことは、他人の不正競争行為によつて被つた損害についても同じように言えることである。そうであるとすれば、民法の一般不法行為理論に立脚するかぎり、不正競争防止法による損害賠償請求は、事実上立証困難の故に、常に棄却を免れないことになる。

前記特許法等の条文は、営業関係におけるこのような不公平な事態を避けるために設けられたものであつて、この趣旨は、立法技術等の関係から設けられなかつたとも推測できる不正競争防止法にも類推適用すべきものであると考える。

そうではなく、損害の算定、立証についても民法の不法行為の一般原則で行くということであれば、なんのために不正競争防止法に第一条の二のような規定を設けたのか理解できなくなる。

以上のとおりであるとすれば、他人の不正競争によつて被つた損害の算定については、原告が主張するような侵害者の不正競争行為によつて得た利益を基準とすることも、そうすることが特に背理であるような特段の事情が認められないかぎり、採用可能な方法の一つであり(商標法第三八条第一項、著作権法第一一四条第一項等参照)、この場合、侵害者の利益が侵害行為と無関係であることその他特段の事情についての反証は、侵害者の方で提出すべきものであると考える。

そこで、次に、右特段の事情の存否について検討する。

原、被告製品と類似する眼鏡枠として、M社製I製作所製のものがあることは、前記第一、一の認定のとおりであるところ、<証拠>によると、I製作所製の眼鏡枠については、僅少ではあるが、現在でも市場に出ていることが認められるけれども、その販売数量、販売額等を認めるにたる証拠はない。

そうすると、I製作所製の眼鏡枠が存在するからといつて直ちに、被告らが本件不正競争行為によつて得た利益が原告の損害ではないとする特段の事情についての反証があつたものとすることはできず、その他の特段の事情の存在については被告らの主張立証しないところである。

そうすると、本件においては、被告らの得た利益をもつて原告の被つた損害であると推認することができる。

そこで、進んで、被告らの利益について判断する。

1  被告Tが、被告製品の販売によつて挙げた利益について

(一) 被告Tが、被告Oに対し、昭和四六年三月一日から同年六月三〇日までの間に、被告製品を四、七〇九本販売したことは、当事者間に争いがない。

そして、被告製品の一本当りの製造原価は金八六八円、被告Oに対する販売価格が金一、八一二円であることが認められ、<証拠判断略>。

そうすると、利益額が、一本当り右販売価格から右製造原価を控除した金九四四円となり、これに前記販売本数四、七〇九を乗じた金四四四万五、二九六円が、被告Tが、被告Oに対し、右期間、被告製品を販売して挙げた利益である。

(二) 被告Tが、被告O以外の者に対し、昭和四六年三月一日から同年六月三〇日までの間に、被告製品を六、〇八一本販売したことは、当事者間に争いがない。

そして、製造原価が一本当り金八六八円であることは、右認定のとおりであり、かつ、右認定に供した証拠によると、販売価格が一本当り金二、一〇〇円であることが認められるから、一本当りの利益が、右販売価格から右製造原価を控除した金一、二三二円となり、これに前記販売本数六、〇八一を乗じた金七四九万一、七九二円が、被告Tが、被告O以外の者に対し、右期間、被告製品を販売して挙げた利益額である。

(三) 原告は、被告Tが、被告Oその他の者に対し、昭和四六年七月一日から昭和四七年一月三一日までの間に、少くとも、月平均二、〇〇〇本合計一万二、〇〇〇本の被告製品を販売した旨主張するところ、被告Tの眼鏡枠の月産数量が一万二、〇〇〇本であるとの証人Sの供述部分が存するけれども、右供述部分のみからは、被告製品の月産本数が平均二、〇〇〇本であると認めるに由ない。

また、前記(一)、(二)の判断によると、被告Tは、昭和四六年三月一日から同年六月三〇日までの間には、月間ほぼ二、〇〇〇本の被告製品を販売したことが明らかであるが、そのことから直ちに、昭和四六年七月一日から昭和四七年一月三一日までの間においても、月平均二、〇〇〇本の被告製品を販売したと推認することは困難である。その他右月産本数を認めるにたる証拠はない。

そうすると、原告の右主張は、理由がないことに帰する。

(四) 右(一)ないし(三)のとおりであるから、被告Tが、被告製品の販売によつて挙げた利益は、総額金一、一九三万七、〇八八円となる。

2  被告Oが、被告製品の販売によつて挙げた利益について

被告Oが、昭和四六年三月一日から同年六月三〇日までの間に、被告製品を四、七〇九本販売したことは、当事者間に争いがない。

前記1の認定に供した証拠によると、被告Oは、被告Tから、被告製品を一本当り金一、八一二円で購入し、これを金二、三八〇円で販売したこと、一般管理費が金一一四円であることが認められ、右事実によると、右販売価格金二、三八〇円から右仕入価格金一、八一二円と一般管理費金一一四円の合計額金一、九二六円を控除した金四五四円が、一本当りの利益額となり、これに前記販売本数四、七〇九を乗じた金二一三万七、八八六円が、利益総額となる。

三損害賠償請求

よつて、原告の不正競争防止法第一条の二に基づく損害賠償請求は、被告Tに対しては、金一、一九三万七、〇八八円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年七月一七日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるので、これを認容し、その余を棄却することとし、被告Oに対しては、請求全部について理由があるので、これを認容することとする。

(高林克己 野澤明 清水利亮)

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